塾ボックス2でのパフォーマンス

Scenery of Vibrationについて
私は音に関する作品を作ってきたつもりだが、そのほとんどは、場所に向ける意識に関するものであることに気づいた。音の作品を依頼されるとき、その依頼者は「音の印象」についての作品を求めている。音を一切出さなくても音の作品として成り立つものもあるし、疑問の余地のないような地点から始める作品もあるが、それらは観客に音の印象を与えるものではない。私にはパフォーマンスやステージのような場で出せるものはあまり無い。実際、ほとんどの作品は録音物である。この作品を考案したのは10年くらい前の、Wrkとして活動していた頃のことだ。そしてこれまで国内外でたびたび実演してきた。その意味で新鮮味のない作品かもしれない。そして申し訳ないくらいシンプルな仕掛けで行うことができる作品だ。しかし私は気に入っている。まず作品の仕組みを説明する。振動盤は圧電セラミックセンサー(piezo-ceramic sensor)というパーツである。これは圧力を電気信号に置き換える素子で、マイクにも成ればスピーカーにも成る。通常、メロディーICや、超音波や衝撃などの実験に使用される、どこででも手に入るパーツだ。これをたくさん用意し、それぞれに正弦波( sine wave)をオシレーターから再生する。振動盤は、会場にある皿やコップなどの日用品に接触するようにセットする。正弦波が流れると振動盤は揺れ、接触している物体との間で、ボールがドリブルするような形で小さな接触音が生まれる。正弦波のピッチが変わると、振動盤の揺れる速さも変わるので、次々と接触音は変化していく。出力される音は限りなくシンプルである。所謂テストトーンのピーという音である。すべての振動盤はどれも同時に同じ音が出力されている。次々変わっていく音は、物体の表面上で起きている出来事である。機械で作っているのではない。使用する周波数は1,000hzから30,000hzの間。出力音量は振動盤の最小限から最大限の振幅の間で適宜、変化させるが、急激にはしない。最初は1,000hzから10,000hzまでゆっくり上昇させる。2,900hzあたりで大きなピークが起こる。これは振動盤の形状に由来するものだ。電子パーツも物体なので、そのもの固有の事情がある。続いて10,000hzから聞こえない30,000hz くらいまでゆっくり上昇させる。20,000hz以上はヒトの可聴範囲を超えるので全く聞こえないが、振動盤は揺れているので物体との間で振動を起こす。こちらはかなり小さい出力で行う。
この作品を私が好んで実演する理由は、実演の際に、細く長い線をゆっくり引いているような感覚が起こるからだ。それが物体の表面に触れ、その都度その都度、印象を作っていく。これは風景を詳細になぞっていくような気分になる。今回、場所がらや客層など、色々考慮して準備してきたが、やはり一番シンプルなやりかたでやってみることにする。1,000hzから10,000hzまでと、10,000hzから30,000hzまでの2本の線の変化を眺めてほしい。 (2012年4月)