眞偽比較


《赤陽》

 彼方に夕日がありながら道路が不自然に光っている。《赤陽》は当初昼の景色として制作されていたようだ。しかし沈む夕日の光を見て急遽構変更したものと推定される。そのため画面下部の一部はコラージュになっている。
しかしこの他人摺りでは建物の影版も摺ってしまっている。コラージュとなった画面下部の位置を探ったのか、道路の広い部分を拡大すると、摺り損じのような跡、細い直線が数本走っている。切断した版木による跡ではないか。自動車の一部は雑に削られている。画面左下も版木の縁と思われる不自然な跡がある。
藤牧のサイン「F」の代わりに、右下角の余白に「小野」の三文判が捺されている。

(《赤陽》の現場。藤牧が目にしたのはこの景色だ。制作経緯は「藤牧義夫 眞偽」の分析を参考にして欲しい。画像○部分は鶴の湯の煙突)


《鉄の橋》

 遠くの煙突が鉄橋の茶色と同じ色になっている。多色にしたせいで空間がバラバラである。特に地面の安定感が失われ鉄橋は宙に浮いて見える。

 《城沼の冬》

 静寂の空のど真ん中に飛行機が飛んでいる。意味が判らない。

しかもスタンプ式、作品ごとに位置に微差がある。《城沼の冬》は藤牧特有の紫で摺られていたが、作品は退色して灰青色っぽくなっている。この飛行機スタンプは紫のままである。つまり後に違うインクで捺されたものだと推測できる。

 《朝靄》(昭和5年の真作は所在不明。版画同人誌「きつつき」より)

 サイン部分が太く削られ「4」の文字が追加されている!真作は高架線が朝靄で霞んでいる様子を摺りの加減で表現しているが、こちらでは版木そのままに摺られている。画面左端の橋脚線部分をさらってしまっているので高架線が切り離され宙に浮いて見える。人物部分の摺りも雑で、消しゴム版画のように潰れている。山高帽子の形も変更されているが理由がわからない。
何よりも「4.11.9ヨシ」が偽作者の表現したいところであろう。そこが一番目立っている。

 《鐵》

 比較すると橋の遠近感が損なわれ、空間の伸びやかさが失われている。あちこちの線をいたずらに太く彫っている箇所が散見される。煙突は無様に曲がっている。何のために手を加えたのだろうか。
ここに挙げた偽作が「グレーの領域」なのか?そんな馬鹿な!