Premiata Forneria Marconi

anatema2010-04-25

 大学時代、気の合う仲間とイタリアに旅行に行った。どうしても観たかった初期ルネサンス絵画。
アッシジパドヴァでのジオット、ウフィツィでは修復後のピカピカのボッチチェルリのヴィーナス誕生、アレッツォでフランチェスカ、聖マルコ美術館でのフラ・アンジェリコ。壁画もよかったが、テンペラのマチエールの美しさは衝撃だった。
その後ギリシャに流れ、メテオラで1週間。
アテネでもうひとりの友人と合流し、シーズン・オフのミコノス島でカラマーリのフライを食ってビールを飲む。
気ままな旅行であった。
あんな気分はもう味わえないだろう。何の心配ごとも無い時間などありえない。
イタリアはユーロ・ロックコレクションを聴いた頃から憧れの場所だった。
実際に、想像以上に素晴らしく、また可笑しな国だった。

ウォークマンには当時再発されたばかりだったマリオ・パンセーリやトト・トルクアーティを吹き込んだテープが入っていた。
道中フィレンツェでコチャンテの「Mu」のテープを購入。
南に向かうエッフェ・エッセの車窓ごしの景色には最高のBGMだった。

先日ブリュッセルでのイベントに参加した帰りの飛行機の中。イタリアン・プログレを溜め込んだMP3プレイヤー。レアーレ・アカデミア、オルメ、ニュートロルス、オザンナ、チェルヴェロ、ムゼオ、トレ、カプリコーン・カレッジ、イ・プー。1曲しか良くないアルファタウラスなどなど。
ロカンダ・デッレ・ファーテやマクソフォーネなどは当時もういいだろう、と思わせたが気負いなく聞けば楽しめる・・・
イタリアものは一端は飽き飽きしたが、大仰な盛り上がりや開けっぴろげの歌など、楽しみに聴くにはなかなかいい。

帰りの飛行機は大概は朝である。
朝日が機内を照らす。
帰ったら気持ちの切り替えが大変だ。
ジェット・ラグなど構っていられない。
9時から5時まで仕事が待っている。
しかし不思議なことに、祝祭のような音楽によるのか、どういうい訳か気楽な気分になった。
どうも脳の奥のほうで、あのイタリア旅行の気分が蘇ったようだ。
自分の席から窓側席は見えない。
しかしそこにどういうわけか、昔の自分と仲間がいるような気がしてきた。
無理やり信じて、機内の雰囲気を味わった。
明るい光に満ちたベージュの機内天上を見つめていると、明日からことへの思い悩みが気のせいであることに気づいた。
久々に晴れやかな、爽やかな気分だ。
窓側席では昔の自分が空を見ているだろう。
横には今の妻がいる。
間違いなくそこにいると念じて信じて、念じたことも忘れよう。

幻の映像だろうか。いや、これもありだ。
人生の川の流れが変わるかもしれない。
世界が甦るかもしれない。
ー「匂いの音楽」ザキヤマ尚洋ー